【令和8年度税制改正】法人税の改正ポイントを解説|設備投資促進税制と賃上げ促進税制の見直し
令和7年12月26日に閣議決定された「令和8年度税制改正の大綱」では、法人税に関して企業の投資・賃上げ行動に直結する改正が盛り込まれました。
特に注目されるのは、「大胆な投資促進税制(特定生産性向上設備等投資促進税制)」の創設と、「賃上げ促進税制」の見直し・段階的整理です。
賃上げ促進税制については、大企業向け・中堅企業向け・中小企業向けの各区分で要件が見直されるとともに、適用できる最終事業年度を区切って段階的に終了する方向性が示されています(中小企業向けは制度自体は存続しつつ一部見直し)。
そのほかにも、少額減価償却資産の基準額引上げ、研究開発税制の強化、戦略分野国内生産促進税制の見直しなど、実務に影響する改正が予定されています。
本記事では、法人税を中心に、改正内容と実務への影響を解説します。
※本記事は令和8年度税制改正大綱の内容を一税理士の視点で解説したものです。 個別具体的な適用については、必ず顧問税理士や税務署にご確認ください。
1. 少額減価償却資産の基準額引上げ(中小企業者等の特例)
中小企業者等が取得した少額減価償却資産の損金算入特例(いわゆる少額資産の特例)について、対象となる取得価額基準が30万円未満→40万円未満へ引き上げられます(令和8年4月1日以後に取得する資産から)。
なお、制度を使ってその事業年度に損金算入できる取得価額合計には上限(年間300万円)があります。また、同特例は常時使用する従業員数が400人を超える法人を対象外としたうえで、適用期限を3年延長する方針も示されています。
| 項目 | 現行 | 改正後 |
|---|---|---|
| 損金算入特例の対象となる取得価額基準 | 30万円未満 | 40万円未満 |
| (制度適用時の)損金算入できる取得価額合計の上限 | 年間300万円 | 年間300万円(上限は維持) |
実務への影響
少額の備品・機器を購入するケースでは、年度内の損金算入(費用化)の範囲が広がります。経理処理の簡素化にもつながる改正です。
※中小企業者等の特例のため、適用可否は法人規模・要件で変わります。
2. 大胆な投資促進税制(特定生産性向上設備等投資促進税制)
企業の投資行動を促進するため、「大胆な投資促進税制(特定生産性向上設備等投資促進税制)」が創設されます。これは、一定規模以上の設備投資を行う企業に対し、即時償却または税額控除を認める制度で、企業規模を問わず生産等設備の投資に適用できる優遇税制として注目されています。
2-1. 対象となる投資計画の要件
本制度の適用を受けるには、以下の基準を満たす投資計画を作成し、経済産業大臣の確認を受ける必要があります。
| 要件 | 基準 |
|---|---|
| 投資計画期間中に取得等する対象資産の取得価額等の総額(一般) | 35億円以上 |
| 投資計画期間中に取得等する対象資産の取得価額等の総額(中小企業者等) | 5億円以上 |
| 年平均の投資利益率(ROI) | 15%以上見込み |
確認を受けた投資計画に基づき、確認日から5年以内に取得して事業に使用した設備が対象となる想定です。
計画の確認申請には期限が設けられる見込みですが、詳細な要件については今後の法令で確定されます。
2-2. 適用を受ける際の優遇措置
本制度では、設備を取得した際に即時償却(取得価額の全額を一括で損金算入)または税額控除(法人税額からの控除)のいずれかを企業が選択できます。
| メリット | 内容 |
|---|---|
| 即時償却 | 取得価額の全額を損金算入 |
| 税額控除 | 7%(建物・建物附属設備・構築物は4%) |
| 繰越 | (法律に基づく認定を受けた事業者に限り)控除限度超過額は3年間繰り越し可 |
| 税額控除の上限 | 当期法人税額の20% |
※繰越税額控除(3年間)が使えるのは、予見し難い国際経済事情の急激な変化への対応など、所定の要件を満たし「法律に基づく認定」を受けた事業者に限られる想定です。通常のケースでは、控除上限(当期法人税額の20%)の範囲内での適用となるため、制度利用時は「繰越の可否」を含めて計画要件を必ず確認しましょう。
2-3. 対象資産の範囲
対象となる資産
- 機械装置
1台又は1基の取得価額が160万円以上のもの - 工具及び器具備品
それぞれ1台又は1基の取得価額が120万円以上のもの(それぞれ1台又は1基の取得価額が40万円以上で、かつ、一事業年度におけるその取得価額の合計額が120万円以上のものを含む。) - 建物
一の取得価額が1,000万円以上のもの - 建物附属設備及び構築物
それぞれ一の取得価額が120万円以上のもの(建物附属設備については、一の取得価額が60万円以上で、かつ、一事業年度におけるその取得価額の合計額が120万円以上のものを含む。) - ソフトウェア
一の取得価額が70万円以上のもの
対象外となる資産(例)
- 事務用器具
- 本店、寄宿舎等の建物
- 福利厚生施設等
2-4. 他の投資系優遇との併用制限
同一の設備について、以下の税制と重複して適用することはできません。併用の可否は資産ごとに個別の判定が必要です。
- 地域未来投資促進税制
- 中小企業経営強化税制
- カーボンニュートラル投資促進税制 など
3. 研究開発税制の強化
研究開発税制について、以下の見直しが示されています。
戦略技術領域型の創設
AI・量子・バイオ等に係る試験研究費について、試験研究費の額の40%の税額控除ができる「戦略技術領域型」が創設されます。産業技術力強化法の重点産業技術共同研究開発機関(仮称)との共同・委託研究については50%の控除率が適用されます。
控除税額は当期の法人税額の10%を上限とし、控除限度超過額は3年間の繰越しができることとされています。
一般試験研究費の見直し
一般試験研究費の額に係る税額控除制度について、控除率カーブおよび控除上限の変動措置の見直しが行われます。
国外委託試験研究の取扱い(段階的縮小)
他の者に委託する試験研究(国外において行われるものに限る)について、税額控除の対象となる割合が段階的に縮小されます(治験を除く)。
| 年度 | 控除対象割合 |
|---|---|
| 令和8年度 | 70% |
| 令和9年度 | 60% |
| 令和10年度以後 | 50% |
※対象となる研究分野や手続(認定・要件等)の詳細は、今後の法令・詳細資料で確認してください。
4. 賃上げ促進税制の見直し
賃上げ促進税制は、企業規模に応じて複数の枠組みがあります。令和8年度改正では、大企業向けの枠は期限到来前に廃止され、中堅企業向け(2,000人以下)の枠は要件見直しのうえ期限到来で廃止される方向が示されています。中小企業向けは制度自体は存続しつつ、上乗せ措置等の整理が予定されています。
4-1. 廃止スケジュール
| 区分 | 適用できる最終事業年度(開始日ベース) |
|---|---|
| 大企業向け | 令和8年3月31日までに開始する事業年度まで(以後、終了) |
| 中堅企業向け(2,000人以下) | 令和9年3月31日までに開始する事業年度まで(以後、終了) |
4-2. 中堅企業向けの要件の見直し
令和8年4月1日から令和9年3月31日までに開始する事業年度について、中堅企業向けでは原則の税額控除率10%の適用要件が従来より引き上げられます。
| 項目 | 現行 | 改正後 |
|---|---|---|
| 税額控除率10%適用に必要な(継続雇用者)給与等支給額の増加割合 | 3%以上 | 4%以上 |
さらに、控除率の上乗せの考え方も整理され、増加割合に応じて次のように設計される方向です。
| 給与等の増加割合(継続雇用者) | 控除率(目安) |
|---|---|
| 4%以上 | 10% |
| 5%以上 | 10% + 5% |
| 6%以上 | 10% + 15% |
※上記に加え、「くるみん認定」「えるぼし認定」などの子育て支援や女性活躍推進に関する国の認定を受けている企業は、さらに5%程度の上乗せが適用される枠組みがあります。適用可否は個別に要件確認が必要です。
4-3. 教育訓練費に係る上乗せ措置
教育訓練費に係る上乗せ措置は、中堅企業向け・中小企業向けで廃止の方向が示されています。廃止時期などの運用面の確定情報は、今後の法令・詳細資料で確認してください。
4-4. 法人事業税付加価値割の調整
法人事業税付加価値割の「雇用者給与等支給額の対前年度増加額」控除について、大企業を適用対象から外す方向などの調整が行われます。 該当の可能性があると思われる場合は、資本金・従業員数などの適用対象の詳細や控除の適用可否について確認しておきましょう。
5. 戦略分野国内生産促進税制の見直し
経済安全保障の観点から、半導体・蓄電池などの戦略的に重要な物資の国内生産を促進する戦略分野国内生産促進税制の見直しが行われます。
5-1. 税額控除額の計算調整
前述の「特定生産性向上設備等投資促進税制」の適用を受けた設備は、戦略分野国内生産促進税制における一部の限度額計算の基礎から除外されます。これは、両方の税制で二重に優遇を受けることを防ぐための調整です。
5-2. 不適用措置の例外要件の見直し
戦略分野国内生産促進税制には、一定の事業年度で税額控除の規定が適用できない場合があります。この不適用措置の例外として求められる要件が、次のように見直されます。
- 継続雇用者給与等支給額の増加割合を 1%以上 → 2%以上 に引上げ
- 賃上げ要件と国内設備投資額要件の双方を満たすことが必要
つまり、税制の適用を受け続けるためのハードルが高くなるため、該当する企業は賃上げと設備投資の計画を早めに見直しておく必要があります。
5-3. 国内設備投資額要件
国内設備投資額要件は、当期償却費総額に対する割合として、次の基準が示されています。
| 企業規模 | 割合基準(目安) |
|---|---|
| 一般 | 30% |
| 資本金10億円以上かつ常時使用従業員数1,000人以上(等) | 40% |
適用場面・判定方法は制度の設計上やや複雑になりやすいため、該当する可能性がある場合は早めに要件を確認しておきましょう。
6. その他の租税特別措置の改正
そのほか、期限を迎える租税特別措置の整理も予定されています。実務上影響が出る可能性がある主な改正は次のとおりです。
| 措置 | 取扱い |
|---|---|
| 倉庫の特別償却制度 | 適用期限到来をもって廃止 |
| 国家戦略特区の指定法人に係る法人税の特例 | 対象事業の一部を除外し2年延長 |
| 特定投資運用業者の役員に対する業績連動給与の損金算入の特例 | 適用期限到来をもって廃止 |
※詳細な適用要件等については、確定した法令でご確認ください。
7. 公益法人等の収益事業課税
公益法人等の収益事業の非課税扱いに関する基準の一部が見直されます。
| 項目 | 現行 | 改正後 |
|---|---|---|
| 農協連合会が営む病院等の「1人当たり平均室料」に関する基準 | 5,000円 | 1万円 |
※対象が限定されるため、一般企業には直接的な影響は少ない改正です。
8. 国際課税
国際課税に関しても、制度運用を前提とした見直しが示されています。実務対象が限られるため、概要のみ整理します。
8-1. 外国子会社合算税制(CFC)の見直し
- 解散した部分対象外国関係会社等に関する特例の創設
- ペーパー・カンパニー特例の資産割合要件の判定不要ケースの追加
- 最高税率で租税負担割合を計算できる特例の適用制限
改正後の規定は、外国関係会社の令和8年4月1日以後に開始する事業年度から適用されます。たとえば12月決算の外国子会社であれば、令和9年1月開始の事業年度が対象となります。
8-2. 外国組合員課税の特例
- 持分割合要件の緩和
- 承認行為の範囲の見直し
9. 施行時期の整理
今回の改正は、項目によって施行時期が異なります。対応のスケジュールを立てる際に参考にしてください。
| 施行時期 | 内容 |
|---|---|
| 令和8年3月31日までに開始する事業年度まで | ・賃上げ促進税制(大企業向け)の適用(以後、終了) |
| 令和8年4月1日以後に取得 | ・少額減価償却資産の基準額引上げ(40万円未満) |
| (一定期限までに確認を受けた計画)+確認日から5年以内の取得等 | ・大胆な投資促進税制(特定生産性向上設備等投資促進税制)の対象期間(詳細は今後確定) |
| 令和8年4月1日以後開始事業年度 | ・研究開発税制の強化(別枠の新設、国外委託の縮小 等) ・戦略分野国内生産促進税制の見直し ・外国子会社合算税制(CFC)の見直し |
| 令和9年3月31日までに開始する事業年度まで | ・賃上げ促進税制(中堅企業向け)の適用(以後、終了) |
まとめ
本記事では、令和8年度税制改正のうち法人税に関する主な改正ポイントを解説しました。
■ 令和8年度 法人税改正の主なポイント
- 少額減価償却資産の基準額引上げ(中小企業者等の特例)
- 取得価額基準を30万円未満から40万円未満に引上げ
- 年間の損金算入上限は300万円で維持
- 大胆な投資促進税制(特定生産性向上設備等投資促進税制)の創設
- 取得価額35億円以上が対象。中小企業者等は5億円以上
- 即時償却または税額控除7%の選択。建物等は4%
- 控除上限は当期法人税額の20%。繰越は要件を満たす場合に限定
- 研究開発税制の強化
- 「戦略技術領域型」の創設。税額控除率40%、共同研究は50%
- 国外委託試験研究の控除対象割合を70%→60%→50%と段階的に引下げ
- 賃上げ促進税制の期限整理と要件引上げ
- 大企業向けは令和8年3月31日までに開始する事業年度で終了
- 中堅企業向けは令和9年3月31日までに開始する事業年度で終了
- 中堅企業向けの税額控除率10%要件を3%から4%へ引上げ
- 戦略分野国内生産促進税制の見直し
- 特定生産性向上設備等投資促進税制との関係整理
- 不適用措置の例外要件を見直し。賃上げ要件は1%から2%へ引上げ
特に、賃上げ促進税制は「どの区分(大企業、中堅企業、中小企業)に該当するか」と「開始事業年度」を軸に、適用可否・要件を早めに確認しましょう。一方で、大胆な投資促進税制は「確認の時期」と「確認後5年以内の取得等」が重要になるため、スケジュールの策定は確認手続きも含めて検討することが重要です。
法人税に関する税制改正は、適用時期や要件が制度ごとに異なり、自社への影響を見極めるには専門的な判断が必要です。対応スケジュールの策定や適用可否の確認は、ぜひ当事務所までお問い合わせください。貴社の状況に合わせて、具体的な対応方針をご提案いたします。まずはお気軽にご相談ください。