法人成りしたらインボイス登録は必要?判断基準を税理士が解説
個人事業から法人成りした場合、「インボイス登録はした方がいいのか?」という相談は非常に多くあります。
結論から言うと、必ず登録しなければならないわけではありません。実務上は、BtoB取引が中心なら登録を検討し、BtoC中心なら登録しない選択も十分あり得ます。 基本的には、得意先の属性で判断することが多いでしょう。ただし、事業内容や収支によっては登録しないことで不利になるケースもあります。
この記事では、法人成り時にインボイス登録を検討する際の判断軸を整理します。
まず確認:法人は自動的に課税事業者になるのか?
消費税の納税義務は基本的には「基準期間」の課税売上高で判定します。
「基準期間」とは厳密には違いますが、ざっくり言うと2年前のことです。当然ですが、法人成りしたてですと2年前というものが存在しませんから、課税売上高もゼロとなり、納税義務がない、つまり免税事業者となります。
一方、インボイス制度の下では、免税事業者は適格請求書発行(いわゆるインボイス)を発行できません。ただし、インボイス登録をすると課税事業者となるため、免税のメリットは失われます。
インボイス登録をすると何が起きる?しないとどうなる?
「消費税払わなくていいんだし、じゃあインボイス登録しなけりゃいいじゃん」と思った方もいるでしょう。でもインボイス登録をしないと困る(損をする)人がいます。
それは、得意先です。
インボイス登録をしない場合、取引先は仕入税額控除を受けられず、実質的にコストが増えることがあります。
そのため、インボイス登録の判断は、自社よりもまず取引先への影響で決まることが多いです。
では、どう判断するかの判断軸を見ていきましょう!
判断軸①:BtoB取引が中心なら登録を検討
まず最も重要なのは、得意先が課税事業者かどうかです。
得意先が課税事業者である場合、こちらがインボイス登録をしていないと、得意先は原則として仕入税額控除を受けることができません。
そのため、こちらがインボイス登録をしていないことによって、得意先にとって実質的なコスト増となる可能性があります。
したがって、BtoB取引が中心で、得意先の多くが課税事業者である場合には、基本的にはインボイス登録を検討することになります。
ただし、実務上は必ずしも「課税事業者だから登録一択」というわけではありません。
実際には、得意先から登録を求められるケースもあれば、交渉のうえ登録しない形で着地するケースもあります。
私としては、得意先の言いなりになるのではなく、まずは経過措置も踏まえたうえで交渉できないかを検討することが重要だと考えています。
実際に、お客様の中にも、得意先と相談のうえ「経過措置がある間はインボイス登録をしない」という形で整理できたケースが複数あります。
このように、得意先が課税事業者かどうかは最も重要な判断軸ではありますが、それだけで機械的に決めるのではなく、取引関係や交渉余地も含めて判断する必要があります。
判断軸②:BtoC中心なら登録しない選択もある
次に重要なのは、得意先が一般消費者かどうかです。
得意先が一般消費者である場合、インボイスの有無は基本的に問題になりません。
一般消費者は仕入税額控除を行う立場ではないため、こちらがインボイス登録をしていなくても、得意先に直接的な不利益は生じないからです。
したがって、BtoC取引が中心である場合には、あえてインボイス登録をしないという選択も十分に合理的です。
特に、一般消費者向けのビジネスでは、インボイス登録をしないことで取引そのものに支障が出るケースはそれほど多くありません。
そのため、このような事業形態であれば、免税事業者としてのメリットを残すという考え方も十分あり得ます。
もっとも、BtoCが中心であっても、今後法人向け取引を増やしていく予定がある場合や、対外的な信用面を意識する必要がある場合には、登録した方がよいケースもあります。
このように、得意先が一般消費者である場合には、インボイス登録の必要性は相対的に低くなりますが、将来の事業展開も含めて判断することが重要です。
判断軸③:消費税額のインパクト
3つ目の判断軸は、インボイス登録をすることで消費税の納税額にどの程度影響があるかです。
法人成り直後の法人は、原則として消費税の免税事業者となるケースが多いため、インボイス登録をしない限り、通常は消費税の納税義務は生じません。
しかし、インボイス登録をすると課税事業者となるため、消費税の納税義務が生じることになります。
そのため、登録することでどの程度の納税負担が発生するのかは、事前に確認しておくべき重要なポイントです。
特に、利益率が高い事業や、仕入・外注費が少ない事業では、受け取った消費税に比べて控除できる消費税が少なくなりやすいため、納税負担が相対的に重くなることがあります。
一方で、仕入や外注が多い事業であれば、負担感がそれほど大きくならないケースもあります。
また、インボイス制度を機に免税事業者から登録する場合には、いわゆる「2割特例」が使える可能性があります。
この特例が適用できれば、納付税額を売上に係る消費税額の2割に抑えることができるため、登録初期の負担を大きく軽減できることがあります。
そのため、単純に「登録すると消費税負担が増える」と考えるのではなく、2割特例の適用可否も含めて試算することが重要です。
もっとも、2割特例には適用できる期間や対象要件があり、すべての法人が使えるわけではありません。
このように、得意先との関係だけでなく、登録した場合に自社のキャッシュフローへどの程度影響するかも踏まえて判断する必要があります。
判断軸④:信頼性
4つ目の判断軸は、インボイス登録をしていないことが事業上の信頼性に影響するかどうかです。
インボイス制度は本来、消費税の制度ではありますが、実務上は単なる税金の問題にとどまらず、取引先からの見え方にも影響することがあります。
例えば、取引先によっては、インボイス登録していない事業者に対して
- 取引を継続しづらい
- 管理上面倒
- きちんとした事業者なのか不安
といった印象を持つことがあります。
もちろん、インボイス登録をしていないこと自体が直ちに信用力の欠如を意味するわけではありません。
ただ、特に法人向けの取引では、制度の理解が浅い担当者ほど「登録しているかどうか」で単純に判断してしまうこともあります。
そのため、今後の営業や取引拡大を見据えるのであれば、税負担だけでなく、登録の有無が対外的にどう見られるかという観点も無視できません。
判断軸⑤:もしかして消費税還付かも?
5つ目の判断軸は、インボイス登録をすることで消費税の還付を受けられる可能性があるかどうかです。
課税事業者になると、売上に係る消費税だけでなく、仕入や設備投資に係る消費税についても控除の対象となります。
そのため、売上よりも先に大きな支出が発生する場合には、還付を受けられる可能性があります。
例えば、
- 設立直後に多額の設備投資をする場合
- 外注費や仕入が先行する場合
- 事業立ち上げ時に大きなコストがかかる場合
などです。
このようなケースでは、単純に「免税の方が得」とは言えず、むしろ課税事業者となってインボイス登録をした方が有利になることもあります。
したがって、インボイス登録を検討する際には、今後の支出予定や還付可能性も含めて判断することが重要です。
実務でよくある失敗パターン
参考に私が新しく顧問税理士となった際にミスされていることに気がついたケースを参考に記載させていただきます。
- インボイス登録を取引先から要請され、制度を理解せずに交渉せず言いなりで登録する。
- 課税事業者になることを知らずに適格請求書発行事業者となる。
- インボイス登録をしたほうが有利にもかかわらず、適格請求書発行事業者登録が遅れるまたは漏れる。
- 既に課税事業者であるにも関わらず適格請求書発行事業者登録を失念する。
まとめ:基本的には得意先から要請があれば登録を検討するが、必ずしも言いなりにならないこと
法人成り時のインボイス登録は、一律に決めるものではありません。
実務上は、BtoB取引が中心なら登録を検討し、BtoC中心なら登録しない選択も十分合理的です。
そのうえで、2割特例を含む消費税負担、取引先との関係、今後の営業や信頼性への影響も踏まえて判断するのが現実的です。
判断に迷う場合は、顧問税理士などに相談し、事前に収支シミュレーションをしたうえで決めることをおすすめします。