役員報酬を高く設定しすぎるとどうなる?変更できる?
前回は、役員報酬が低すぎるとどうなるのかについて解説させていただきました。今回は逆に高く設定しすぎるとどうなるのかという点について解説させていただきます。
「これくらいもらっても問題ないだろう」
「利益も出そうだから少し高めでも大丈夫だろう」
安易にそう考えて役員報酬を高めに設定した結果、その後から「やっぱり減らしたいんだけどどうすればいい?」というご相談をよくいただきます。
そんな方を一人でも減らすため、この記事では、役員報酬を高く設定しすぎた場合に起こり得る問題・リスクなどについて説明させていただきます。
役員報酬を高く設定することによる問題・リスク
まず、前提として理解する必要があるのは、役員報酬は、一度決定すると原則として事業年度中は変更できません。これは法人税法上の「定期同額給与」のルールによるものです。つまり、毎月必ず支払う固定費になります。
このルールがあるため、例えば売上が想定より伸びなかった場合でも、簡単には減額できません。
役員報酬を過度に高く設定すると、起こることとして下記が挙げられます。
- 決算書の評価が悪化する
- 繰越欠損金の利用機会喪失リスク
- 資金難となり、役員借入金が増加するリスク
- 社会保険料の負担が増える
- 「過大役員報酬」による税務リスクが高まる
一つずつ説明させていただきますね。
1. 決算書の評価が悪化する
まず、赤字となった場合には、当然決算書の見栄えが悪くなりますので銀行融資などを検討されている方は注意が必要です。また、会社を売却しようと考えられている場合には収益力が乏しいと思われてしまう可能性もあります(買い手候補者側に知見があれば、役員報酬は正常収益力の調整対象となることもあるかと思います)。
2. 繰越欠損金の利用機会喪失リスク
もし赤字となれば、基本的にはその年度の税負担は軽くなりますし、その後の所得と相殺できます(繰越欠損金の利用)。ですが、継続的に赤字が続くと、せっかく所得と相殺できるはずだった繰越欠損金が期限切れとなってしまうこともあります。そのような場合は、本来得られるはずだった税効果が得られず大変もったいない形になってしまうリスクがあります。
3. 資金難となり、役員借入金が増加するリスク
また、法人の資金が不足し、役員報酬が支払えなかったり、他の経費も社長が法人の代わりに立て替えることとなり、「役員借入金」が積みあがっていってしまいます。下手したら、会社からお金をもらっていないのに社長の個人の所得税だけ払う羽目になるかもしれません。時々資金繰りが悪化している会社で盲目的に役員報酬を計上されているケースがありますが、これは本当に最悪です。また、社長一人だったらまだしも、外部の役員がいる場合は支払わないといけないので、気を付けないといけません。
役員借入金があること自体は特に違法ではなく、法人成りしたての会社ではよくあることです。ただ、役員借入金が多額となると、例えば次のような影響があります。
- 金融機関から資金繰りに不安があると判断される可能性がある
- 税務調査において、売上の除外を疑われるリスクがある
- 社長の相続人の相続財産となり、相続税負担が増えるリスクがある
これらのリスクは直ちに顕在化しやすいものではないですが、解消されるに越したことはないというのはご理解いただけるかと思います。特に相続財産の問題は金額が多額だと相当なリスクがあります。法人に弁済能力があれば話は別ですが、そうでない場合、相続人からすれば回収できない貸付金を相続したうえで相続税だけを払うなんて辛すぎますよね。
4. 社会保険料の負担が増える
社会保険料負担についても注意です。社会保険料は法人及び個人で概ね15%ずつ、合計30%ほど負担します。(ただし、上限があります。)社会保険料負担を失念し、役員報酬を予想利益のギリギリに設定すると、赤字・資金不足となってしまうリスクがあると言えるでしょう。これも「役員借入金」が増加する原因となる可能性があります。
5. 「過大役員報酬」による税務リスクが高まる
最後に「過大役員報酬」による税務リスクとは、前提として法人税法の世界では、役員報酬は業務内容・役割等に応じて相応の報酬を超過する部分は損金算入できないというルールがあります。それっていったいいくらなんだという話なのですが、過去の事例などからは、同程度の規模の同業他社の報酬が参照されています。正直調べても簡単に手に入る情報ではありませんし、私も知りません。個人的には、このような状況が納税者側にとって税務手続に関する予見可能性を損なうこととなっており、改善してほしいと思っていますが、現状のルールとしてはこのような運用となっており、注意が必要です。特に、家族経営の会社で何ら業務を行っていない親族に役員報酬を支払っている場合はリスクが高いと言えるでしょう。
役員報酬が高すぎる場合の解決法
1.翌期になるのを待って役員報酬を見直す
役員報酬が高すぎる場合の対処法として、役員報酬をまずは見直すということかと思います。そのタイミングは、前述のとおり、「定期同額給与」のルールに気を付けながら実施する必要があります。
2. 臨時改定事由に該当しないか確認する
ただし、「定期同額給与」については、経営の状況が著しく悪化した場合など、例外的に変更できる場合(業績悪化改訂事由)がありますので、その場合に当てはまっていないか確認することが重要です。当てはまっている場合でもしっかり株主総会議事録などを作成しましょう。
業績悪化改訂事由の例は下記の通りです(「役員給与に関するQ&A」より)。
- 株主との関係上、業績や財務状況の悪化についての役員としての経営上の責任から役員給与の額を減額せざるを得ない場合
- 取引銀行との間で行われる借入金返済のリスケジュールの協議において、役員給与の額を減額せざるを得ない場合
- 業績や財務状況又は資金繰りが悪化したため、取引先等の利害関係者からの信用を維
- 持・確保する必要性から、経営状況の改善を図るための計画が策定され、これに役員給与の額の減額が盛り込まれた場合
実際によくあるケース・ご相談
Q. 親族を役員とし、役員報酬を支払うことはできないのでしょうか?
その親族が役員としての業務の実態があり、相応の金額であれば問題ありません。業務の実態を説明できるようにしましょう。
Q. 売上が減少したのですが、役員報酬を減らしても良いかどうか、いわゆる臨時改定事由に該当するかどうかはどのように考えればよいでしょうか?
A. 国税庁が下記のとおり、「役員給与に関するQ&A」を開示しています。こちらに業績悪化による減額に関する事例がありますので、参照ください。
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hojin/qa.pdf
まとめ
役員報酬を過度に高額にすると、様々なリスク・問題が発生します。税務上、後から変更が難しいことから、これらを理解しながら事前の設計が重要です。
繰り返しにはなりますが、新しくお客様となった会社さまで一番残念だなと思うことが多いのが、資金繰りが厳しくて役員報酬を帳簿上は計上しつつ、支給できずに未払または役員借入金で計上しているケースです。本人にお金はほとんど入ってきていないのに、所得税や社会保険などだけジャブジャブ支払われている時も多いです。このような場合には顧問税理士はすぐに業績悪化改訂事由に該当しないか検討の上、可及的速やかに減額するようアドバイスすべきだと思いますが、前任者がそのようなアドバイスをしていないケースも多く、非常に残念に思います。