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役員報酬は期中に下げられる?減額できるケースと損金不算入のリスクを税理士が解説

2026.09.02

「利益が思ったより出ない。役員報酬を下げたいけど、期の途中で下げてもいいの?」——結論からお答えします。役員報酬は、原則として事業年度開始から3か月を経過する日までに改定すれば、「通常改定」として全額を損金(=税金計算上の経費)にしたまま下げられます。一般的な中小法人では、この期間内の改定に業績悪化などの特別な理由は不要です(申告期限延長の特例を受けている法人などでは、期限が異なる場合があります)。それを過ぎた期中の減額は、「業績悪化改定事由」(または役職・職務内容の重大な変更による「臨時改定事由」)に該当する場合に限り、全額を損金にしたまま下げられます。そして意外と知られていないのですが、どちらにも当てはまらなくても、下げること自体は可能です。違法でも何でもありません。ただしその場合、報酬の一部が損金不算入(=税金計算上、経費として認められないこと)になるという税務上のコストが発生します。

「期中に下げると経費にならないと聞いて、諦めてしまった。。。」という方も少なくないと思います。でも実際には、「できない」のではなく「税務上の影響を数字で見積もったうえでの経営判断」なんです。この記事では、業績の変動に直面した社長さんに向けて、①いつなら下げられるのか、②期中に下げたらどの部分がいくら損金不算入になるのか(図解)、③「業績悪化改定事由」の線引き、④下げるメリット・デメリットの早見表、⑤赤字なら報酬をゼロにすべきか、⑥株主総会議事録から給与明細への反映までの実務手順、を税理士が順番に解説します。

なお、「そもそも期首に高く設定しすぎた」という設定段階の失敗と、高すぎる役員報酬のリスクについては、役員報酬を高く設定しすぎるとどうなる?変更できる?で解説しています。本記事は「今ある報酬を下げる」実務に絞ってお届けします。

結論:役員報酬は期中でも下げられる。問題は「損金になるかどうか」

定期同額給与とは——「毎月同じ額」だから経費になる

まず前提となる仕組みからかみ砕きます。役員報酬が損金になるのは、原則として法人税法の定期同額給与(=原則として1か月以下の一定期間ごとに同額で支給する役員給与。一定の要件を満たす改定をした場合は、改定前・改定後のそれぞれの期間で同額であれば定期同額給与として扱われます)に該当する場合です。なぜこんなルールがあるかというと、役員は自分の給与を自分で決められる立場だからです。「今期は利益が出そうだから、決算月だけ報酬をドンと増やして利益を消そう」といった恣意的な利益調整を認めてしまうと、法人税の計算が成り立たなくなります。だから「毎月同額で払い続けている分だけ経費として認めます」という建て付けになっているのです。

定期同額給与と事前確定届出給与(賞与を損金にするための届出制度)を含めた役員報酬のルール全体は、役員報酬のルール|定期同額給与と事前確定届出給与を税理士が解説で詳しく整理しています。

下げられるタイミングは3つ——通常改定・臨時改定・業績悪化改定

「毎月同額」といっても、1年間まったく変えられないわけではありません。法人税法上、次の3つの改定は、改定の前後それぞれで同額を支払っていれば定期同額給与のままでいられます。

  1. 通常改定:原則として事業年度開始の日から3か月を経過する日までに行う改定(例:3月決算なら6月末まで。申告期限延長の特例を受けている法人などでは期限が異なる場合があります)。定時株主総会での改定が典型で、一般的な中小法人では、この期間内の改定に業績悪化などの特別な理由は不要です。増額も減額もできます。
  2. 臨時改定事由による改定:役員の職制上の地位の変更や、職務内容の重大な変更があった場合(例:社長が病気で常勤できなくなり非常勤になる)。
  3. 業績悪化改定事由による改定:経営の状況が著しく悪化したことなどによる改定。減額だけが認められており、増額はできません。

つまり、期中に下げたいときの本命ルートは3つ目の「業績悪化改定事由」です。そしてもう1つ、大事な前提を押さえてください。これらに該当しなくても、「下げてはいけない」わけではないということです。会社法上、役員の報酬額などを定款で定めていない場合は株主総会の決議で定めることとされており(会社法361条)、この決議を経れば、期中でも減額自体は可能です。あくまで税務上、損金不算入となる部分が生じるだけです。資金繰りが最優先の局面では、損金不算入を覚悟のうえで下げるのも立派な経営判断——というのが実務の感覚です。では、その「損金不算入となる部分」とはどこなのか。次の図解で確認しましょう。

【図解】期中に下げたら、どの部分が損金不算入になる?

月額50万円の役員報酬を30万円に下げるケースで、3つのパターンを図解しました。

役員報酬を期中に下げた場合の損金算入・損金不算入の図解。①原則として事業年度開始から3か月以内の通常改定で月額50万円から30万円に下げた場合は全額損金算入OK。②期中でも業績悪化改定事由に該当して下げた場合は全額損金算入OK。③事由がないのに期中で下げた場合は、減額前の各月の支給額のうち減額後の30万円を超える20万円×6か月=120万円が損金不算入となり、減額後の30万円部分は12か月分すべて損金算入できる。
役員報酬を期中に下げた場合の損金算入・損金不算入(例:月額50万円→30万円)

ポイントは、損金不算入になるのは「減額したこと」そのものではない、という点です。一般的な取扱いでは、期中に減額した場合、事業年度を通じて毎月支払われている減額後の金額(図の例では月30万円)までは定期同額給与として損金算入が守られ、減額前の各月の支給額のうち減額後の金額を超える部分——図の例では20万円×減額前の6か月=120万円——が損金不算入になります。「下げた後の報酬が経費にならなくなる」のではなく、「下げる前に多く払っていた部分がさかのぼって経費にならなくなる」イメージです。この考え方は公表裁決例でも確認されており、国税不服審判所の裁決(平成23年1月25日裁決)では、業績悪化改定事由に該当しない期中の減額について、減額後の給与額を定期同額給与の額とし、それを超える減額前の各月の部分を損金不算入とする処分が適法と判断されています。

「120万円も経費が消えるの!?」と驚くかもしれませんが、慌てずに実際の影響額を見積もりましょう。損金不算入になると、その分だけ法人の所得(=税金計算上の利益)が増えます。法人税などの負担率を仮に約30%とすると、120万円×約30%=約36万円の税負担増です(中小法人の軽減税率などにより、実際の負担率は所得の水準によって変わります)。一方で、報酬を月20万円下げれば、報酬そのものと社会保険料をあわせた毎月のキャッシュアウトは確実に減っていきます。

さらにいえば、報酬を下げたい局面ではそもそも会社が赤字というケースも多いはずです。損金不算入で所得が増えても、所得がマイナスのままなら、その事業年度に追加の法人税は発生しません(将来の黒字と相殺できる繰越欠損金(=赤字を翌年度以降に繰り越して黒字と相殺できる仕組み)が減る、という形で影響は残ります)。「期中減額=絶対NG」と思い込んで資金繰りが行き詰まるより、影響額を数字で見積もったうえで判断する方がずっと健全です。

1つだけ、できないことがあります。過去の支給分にさかのぼって下げることです。「今期は4月から下げたことにして、もう払った分は返してもらおう」というやり方は通用しません。すでに支給した役員報酬は、源泉所得税も社会保険料もその金額で処理が済んでおり、後から返金しても「なかったこと」にはならないからです。減額はあくまで、株主総会で決議した後に到来する支給分から。だからこそ、下げると決めたら早めに動くことが大切です。

業績悪化改定事由とは?国税庁Q&Aの線引き

とはいえ、損金算入を守ったまま期中に下げられるならそれに越したことはありません。その本命ルートが業績悪化改定事由です。法人税法施行令では「経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由」と規定されており、具体的な線引きは国税庁の「役員給与に関するQ&A」(PDF)で示されています。顧問税理士がいない方も、原文はこのQ&Aで確認できますので、判断の前に一度目を通しておくことをおすすめします。

認められる典型例——第三者との関係で「下げざるを得ない」場合

国税庁Q&Aで挙げられている典型例は、次の3つです。

  • 株主との関係上、業績や財務状況の悪化についての役員としての経営上の責任から、役員給与の額を減額せざるを得ない場合
  • 取引銀行との間で行われる借入金返済のリスケジュールの協議において、役員給与の額を減額せざるを得ない場合
  • 業績や財務状況または資金繰りが悪化したため、取引先など利害関係者からの信用を維持・確保する必要性から、経営状況の改善を図るための計画が策定され、これに役員給与の額の減額が盛り込まれた場合

3つに共通するのは、単に「社長が下げたいと思った」ではなく、株主・銀行・取引先といった第三者との関係で、下げざるを得ない客観的な事情があることです。「誰に対する説明として下げるのか」を意識すると、該当するかどうかの判断がしやすくなります。

ただし、社長自身が大株主である一人会社や同族会社(=社長やその親族など少数の株主が会社を支配している会社)では、「株主に対する経営責任」という説明だけで当然に認められるわけではありません。国税庁Q&Aでも、このような会社では、役員給与を減額せざるを得ない客観的かつ特別の事情を具体的に説明できることが重要とされています。

認められない例——「利益目標に届かなそう」だけではダメ

一方、国税庁の法人税基本通達(9-2-13)では、法人の一時的な資金繰りの都合や、単に業績目標値に達しなかったことなどは業績悪化改定事由に含まれないとされています。また国税庁Q&Aでも、業績や資金繰りの悪化という事実があっても、利益調整のみを目的とした減額はこれに該当しないことが明示されています。公表裁決例でも、経常利益が前年より6%程度減ったにとどまる状況での減額が「経営状況の著しい悪化」に当たらないと判断された事案があります。イメージとしては、「思ったより儲からなかったから調整したい」レベルではなく、「このままでは会社の経営や信用が立ち行かない」水準の悪化が求められている、と考えてください。

「これから悪化しそう」でも認められる場合がある

では、数字がまだ致命的に悪化する前に手を打つのはダメなのかというと、そうとも限りません。国税庁Q&Aでは、現状では数値的指標が悪化していなくても、客観的な状況に照らして今後著しく悪化することが不可避であり、役員給与の減額などの経営改善策を講じなければならない場合も業績悪化改定事由に含まれ得るとされています。たとえば、主要な得意先が倒産して売上の大幅な減少が避けられないことが明らかな場合などです。逆にいうと、「なんとなく先行きが不安だから」では足りず、数値や取引先・金融機関との関係、社内で実施している経営改善策など、客観的な事情で説明できるかどうかが重要です。該当すると判断して減額する場合も、株主総会議事録に悪化の事情や数値を残し、銀行との協議資料や経営改善計画などの書類をきちんと保存しておきましょう。税務調査で説明を求められるのは、まさにここです。

「どこまで下げてよいか」にも触れておきます。法令上、下げ幅そのものに明確な基準はありませんが、悪化の程度と整合する説明ができる水準にしておくのが実務の鉄則です。たとえば銀行とのリスケジュール協議を理由にするなら、協議の中で示した経営改善計画の数字と、減額後の報酬額がつながっていること。株主への経営責任を理由にするなら、悪化の規模に見合った減額であること。「事由には該当するけど、下げ幅の根拠は特にない」という状態は、調査で突かれる隙になります。減額の理由・数字・下げ幅をワンセットで説明できるように準備しておきましょう。

自社の状況が業績悪化改定事由に該当するかどうかの判断は、会社の数字と外部との関係を突き合わせる必要があり、顧問サービスの中でサポートしています。顧問契約やお見積もりのご検討は、お問い合わせフォームからご連絡ください。

役員報酬を下げるメリット・デメリット早見表

損金の論点が整理できたら、次は「下げる」こと自体の損得です。役員報酬の増減は、法人税だけでなく、社会保険料・年金・融資審査まで幅広く影響します。主な影響を早見表にまとめました。

項目下げるとどうなる補足
会社の資金繰り◎ 改善する報酬そのものに加え、社会保険料の会社負担分のキャッシュアウトも減る
法人税△ 増える方向経費が減る分、所得は増える。ただし赤字の圧縮にとどまるなら、当期の納税額は変わらないことも
社会保険料○ 会社・個人とも下がる報酬の変更により標準報酬月額(=社会保険料を計算するための報酬の区分)に原則2等級以上の差が生じるなど随時改定の要件を満たすと、変動月から4か月目に改定
個人の所得税・住民税○ 下がる住民税は前年の所得で計算されるため、下がるのは翌年6月から。当面は「手取り減×住民税そのまま」のダブルパンチに注意
将来の厚生年金△ 減る老齢厚生年金は標準報酬月額ベースで計算されるため。影響額の目安はFAQで解説
傷病手当金などの給付△ 減る健康保険の給付額も標準報酬月額がベース
役員個人の生活△ 直撃する役員は原則として雇用保険の対象外。失業手当のようなセーフティネットがない分、手取り減はダイレクトに効く
融資審査○/△ 両面ある法人の決算は黒字化しやすくなりプラス。一方、社長個人の所得減は住宅ローンなど個人の審査にはマイナス
役員報酬を下げた場合の主な影響(◎○△は影響の方向性のイメージです)

数字のイメージも持っておきましょう。月額50万円を30万円に下げた場合、年間の報酬は240万円減ります。社会保険料は会社と個人でおおむね15%ずつ負担しているため、概算で会社負担分が年間約36万円、個人負担分も年間約36万円軽くなります(料率や標準報酬月額の等級により変わる、年間を通じて効果が出た場合の概算です。期中減額では、後述する随時改定まで3か月のタイムラグがあるため、減額した年の実際の削減額はこれより小さくなります)。つまり会社から出ていくお金は、報酬と会社負担分をあわせて年間約276万円減る計算です。資金繰りが厳しい会社にとって、これは相当大きなインパクトですよね。一方、社長個人の手取りは、報酬の減少分から所得税・社会保険料の減少分を差し引いたぶんだけ減ります。しかも前述のとおり、住民税は前年の所得ベースで翌年5月分まで変わらないため、下げた直後の1年間がいちばん家計がきついという点は覚悟しておいてください。

ざっくりいえば、会社のキャッシュと決算書には追い風、社長個人の手取りと将来の給付には向かい風です。「では、いくらに下げるのがちょうどいいのか」を数字で確かめたい方は、役員報酬のシミュレーション|手残り最大化の最適額を徹底比較で法人・個人トータルの手残りを比較できます。報酬額の決め方の全体像は役員報酬の決め方完全ガイド|税金・社会保険・失敗例まで税理士が解説をご覧ください。

赤字でも役員報酬をゼロにすべきか

「赤字なんだから、いっそゼロにすればいいのでは?」というご相談もよくいただきます。気持ちは分かるのですが、ゼロにする前に確認してほしいことが3つあります。

1. 社会保険の資格がなくなる

役員報酬が無報酬になると、原則として社会保険(健康保険・厚生年金)の被保険者資格を失い、国民健康保険・国民年金に切り替えることになります(ご家族の扶養に入れる場合もあります)。切り替えの手間や保障内容の変化も踏まえて、あえて低額の報酬を残して社会保険に加入し続ける、という選択も実務ではよく検討されます。

2. 生活費の出どころがなくなり、役員貸付金が生まれる

報酬をゼロにしても、社長の生活費は毎月必要です。貯蓄で賄えないと、結局会社からお金を引き出すことになり、役員貸付金(=会社から社長個人への貸付)が積み上がります。役員貸付金は銀行融資の審査で非常に嫌われるうえ、会社が役員に無利息や低い利率で貸し付けた場合には、通常の利率で計算した利息との差額分が役員への経済的利益(=給与)として課税され得るという税務上の問題もあります。「下げすぎ」が招くこの問題は、役員報酬を低くしすぎるとどうなる?法人成り初年度に多い役員貸付金の問題で詳しく解説しています。

3. 逆に「払えないのに計上し続ける」のは最悪

ゼロにするかどうか以前に、いちばん避けてほしいのがこのパターンです。資金繰りが厳しいのに帳簿上だけ役員報酬を計上し続け、実際には支払えず、未払役員報酬(未払金・役員借入金)が積み上がっていく——。会社からお金をほとんどもらっていないのに、社会保険料は実際の支払いの有無にかかわらず発生し続けます。所得税も、給与所得として計上されるタイミング(原則として定められた支給日)と源泉徴収のタイミング(実際に支払ったとき)が異なるため、未払いのままでは処理が複雑になり、負担感だけが残ります。冷静に考えるとかなり理不尽な状態ですよね。。。こうなるくらいなら、業績悪化改定事由への該当を検討して、きちんと減額する方がはるかに健全です。

つまり「ゼロか現状維持か」の二択ではなく、生活費・社会保険・会社の資金繰りが同時に回る水準まで下げるのが現実的な落としどころです。考える順番としては、①社長個人の生活に最低限必要な月額(家賃・住宅ローン・教育費など)を洗い出す、②その金額を報酬として払い続けても会社の資金繰りが回るかを確認する、③回らないなら、どの固定費とあわせて見直すかを考える——という「個人の生活からの逆算」がおすすめです。報酬は下げたら終わりではなく、業績が戻れば翌期の通常改定で上げ直せばよいのです。

実務手順|株主総会の決議から給与明細への反映まで

下げると決めたら、手続きは3ステップです。順番に見ていきましょう。

STEP1 株主総会で決議し、議事録を残す

会社法上、役員の報酬額などを定款で定めていない場合は、株主総会の決議で定めます(会社法361条)。期中に下げる場合は、株主総会(臨時に開催するか、株主全員の同意による書面決議)で、①誰の報酬を、②いつの支給分から、③いくらに下げるのかを決議し、議事録を作成・保存します。社長一人の会社でも、決議の書面(議事録)は必ず作成してください。一人だからこそ、「いつ・いくらに決めたか」を示す書面がないと後から証明のしようがないからです。業績悪化改定事由による減額なら、売上や資金繰りの悪化状況、銀行との協議内容など「なぜ下げざるを得ないのか」も議事録に残し、議事録に加えて業績資料や金融機関とのやり取りなど事情を示す資料もあわせて保存しておくと、税務調査での説明がスムーズです。議事録を含む役員報酬まわりの実務の流れは、freeeで役員報酬を支給する実務|認定アドバイザー税理士が議事録・源泉税・社会保険まで解説で解説しています。

議事録に最低限記載しておきたい項目は次のとおりです。

  • 開催日時・場所、出席した株主と議決権数
  • 決議事項:誰の報酬を、いつの支給分から、月額いくらに減額するか
  • 減額の理由(業績悪化改定事由による場合は、売上・資金繰りの悪化状況や銀行との協議など具体的な事情・数値)
  • 議長・出席役員の記名(作成日を明記し、他の帳簿書類とあわせて保存)

STEP2 社会保険の月額変更届(随時改定)

役員報酬という固定的賃金を変更し、変更後3か月間の報酬の平均による標準報酬月額と従前の標準報酬月額に原則2等級以上の差が生じるなど、随時改定の要件(原則として、3か月それぞれの支払基礎日数が17日以上であることなど)を満たした場合は、変動月から数えて4か月目から標準報酬月額が改定されます(随時改定)。該当する場合は、年金事務所へ「被保険者報酬月額変更届」を提出してください。逆にいうと、減額してもすぐには社会保険料は下がらず、最初の3か月は従前の保険料のままです。資金繰りの計画には、このタイムラグも織り込んでおきましょう。※ここでいう「3か月」は、税務上の「事業年度開始から3か月以内」とは別のルールです。

STEP3 給与計算・給与明細に反映する

決議した支給分から、給与計算ソフトの役員報酬の月額設定を変更し、変更後の金額で給与明細と源泉所得税の計算が行われることを確認します。あわせて、会計帳簿側でも役員報酬の仕訳金額が変更月からきちんと変わっているかをチェックしておくと安心です。決議した月と給与明細への反映月がずれると、「議事録上は10月から30万円なのに、10月も50万円払っていた」という事故につながります。定期同額給与は「決めたとおりに払い続ける」ことが命なので、ここは丁寧に確認してください。なお、freeeをお使いの方は、freeeで役員報酬を支給する実務で設定まわりを詳しく解説しています。

よくある質問(FAQ)

期の途中で役員報酬を下げたら、いくら損金不算入になりますか?

通常改定・臨時改定事由・業績悪化改定事由のいずれにも該当しない減額の場合、一般的な取扱いでは、減額前の各月の支給額のうち「減額後の金額を超える部分」が損金不算入となります。たとえば月額50万円を7か月目から30万円に下げた場合、差額20万円×減額前の6か月=120万円です。減額後の30万円部分は、12か月分すべて損金算入できます。詳しくは本文の図解をご覧ください。

社会保険の月額変更届は必要ですか?保険料はいつから下がりますか?

役員報酬を変更し、変更後3か月間の報酬の平均による標準報酬月額と従前の標準報酬月額に原則2等級以上の差が生じるなど、随時改定の要件を満たすと「被保険者報酬月額変更届」の提出が必要です。保険料が下がるのは、変動月から数えて4か月目からです。たとえば10月支給分から下げた場合、10月・11月・12月の3か月の報酬で判定し、翌年1月分の保険料から改定されます。

一度下げた役員報酬を、同じ事業年度中にまた上げられますか?

期中の増額は、臨時改定事由(役職の変更など)がない限り定期同額給与から外れ、一般的な取扱いでは増額後の支給額のうち増額前の金額を超える部分が損金不算入となります。業績が回復した場合でも、原則は翌事業年度開始から3か月以内の通常改定で上げるのが無難です。また、業績悪化改定事由で下げた直後に安易に元へ戻すと、「そもそも悪化は本当だったのか」と当初の減額の妥当性まで疑われかねない点にも注意してください。

常勤役員を非常勤にして報酬を下げるのはありですか?

役員の地位や職務内容の重大な変更は「臨時改定事由」に該当し得るため、期中でも定期同額給与のまま減額できる場合があります。ただし、形だけ非常勤にして実態はこれまでどおりフルで働いている、という状態では認められません。勤務実態と職務内容が本当に変わることが前提です。また、非常勤化により社会保険の被保険者資格に影響が出る場合もあるため、あわせて確認してください。

役員報酬を下げると、将来の年金はどれくらい減りますか?

老齢厚生年金(報酬比例部分)は、おおむね「平均標準報酬額×5.481/1000×加入月数」で計算されます(平成15年4月以後の期間)。たとえば標準報酬月額が10万円下がった状態が2年(24か月)続いた場合、将来受け取る年金額の減少は年間で約13,000円です。「年金が減る」こと自体は事実ですが、目先の資金繰りの逼迫と天秤にかけるべき規模かどうかは、こうして金額に落として判断しましょう。なお、厚生年金の標準報酬月額には上限(65万円。2027年9月以降、段階的に75万円まで引き上げられる予定です)があるため、減額前後の報酬がその時点で適用される上限をいずれも上回り、標準報酬月額が変わらない期間については、年金額への影響はありません。

役員報酬を減額したら、税務署への届出は必要ですか?

不要です。定期同額給与は、事前確定届出給与(賞与を損金にするための制度)と違って税務署への届出制度がありません。その代わり、「いつ・いくらに決めたか」を証明する中心となる書類が株主総会議事録です。議事録に加えて、業績資料や金融機関とのやり取りなど減額の事情を示す資料もあわせて保存しておきましょう。届出がいらないぶん、こうした書類の作成・保存が実質的な生命線になる、と考えてください。

家族役員の報酬も同じルールで下げられますか?

同じです。配偶者やご家族の役員報酬も定期同額給与のルールで動くため、期中に下げるなら通常改定・臨時改定事由・業績悪化改定事由のいずれかに乗せるのが基本です。なお、家族役員については「職務の実態に見合った金額か」という過大役員報酬の論点も別途あるため、業務の実態を説明できる状態にしておくことも忘れずに。この論点は役員報酬を高く設定しすぎるとどうなる?の記事で解説しています。

まとめ|役員報酬を下げる前に確認すべきことチェックリスト

おさらいです。役員報酬は、①原則として期首から3か月以内なら通常改定として下げられる(一般的な中小法人では業績悪化などの特別な理由は不要)、②期中でも業績悪化改定事由に該当すれば損金算入を守ったまま下げられる、③該当しなくても下げること自体は可能で、損金不算入という税務コストを見積もったうえで下げる判断もあり得る——この3段構えで考えれば、「期中は絶対無理」でも「自由に下げ放題」でもない、自社にとっての現実的な落としどころが見えてくるはずです。

最後に、下げる前に確認すべきことをチェックリストにまとめました。ぜひ保存してお使いください。

役員報酬を下げる前に確認すべきこと
  • 今が事業年度開始から3か月以内かを確認した(原則としてこの期間内なら通常改定で下げられる)
  • 期中なら、業績悪化改定事由に該当するか確認した(株主・銀行・取引先との関係で下げざるを得ない客観的な事情があるか)
  • 該当しない場合、損金不算入となる金額と税負担への影響を試算した(赤字なら当期の実害が小さいことも)
  • 下げた後の金額で、社長個人の生活費が回るか確認した(足りないと役員貸付金の入り口になる)
  • 株主総会の決議と議事録を準備した(業績悪化の場合は理由・数値も記録)
  • 社会保険の月額変更届(随時改定)の要否と、保険料が下がるまでの3か月のタイムラグを確認した
  • 将来の厚生年金・傷病手当金など、標準報酬月額ベースの給付への影響を確認した
  • 決議した月から給与明細・仕訳に反映されるか確認した

「期中に下げてよいか」「下げるならいくらまでか」の判断は、会社の数字と資金繰り、社長個人の生活まで見ながら詰める必要があり、当事務所の顧問サービスの中でサポートしています。顧問契約やお見積もりのご検討は、お問い合わせフォームからご連絡ください。

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※本記事は、公開時点(2026年9月)の法令・制度などに基づく一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務アドバイスではありません。実際の判断や手続きにあたっては、最新の法令をご確認ください。なお、本記事の情報に基づいて生じた損害について、当事務所は責任を負いかねます。

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